継章までクリアしたが、「聖火守指長とはいかなる存在なのか?」という疑問は結局最後まで解決されなかった。
ここでは、聖火守指長に関する説明の矛盾点を列挙したいと思う。
【名授3章までの説明】
聖火守指長は、大陸の覇者で登場した聖火教会内の役職である。
一番初めに出てきた聖火守指長の説明は、三極編終章でサザントスが初登場した時の自己紹介である。
このサザントスは偽物なのだが、聖火守指長についての説明は正しい。
名授序章でサザントスに対して「聞き出す」を使った時に表示される説明には「神々の指輪を守る役目を任された者」とあるし、名授3章リブラック戦でも「神の指輪を守護する天命を授かりし者なり」と言っているので、そこは間違いはなさそうである。
【名授3章での説明】
サザントスは聖火守指長だった当時、指輪を探し出すために動いていた。名授3章のサザントスの説明では、聖火守指長は指輪を探し続けるクロスフォード家と手を組んできたというが、その目的は当然行方不明になった指輪を回収するためであったと思われる。「クロスフォード家と『我々』、聖火守指長は」ということは、聖火守指長は何代にも渡って協力関係だったのであろうか。
「門を閉じた後『も』」と言われているところから、クロスフォード家はフィニスの門を封印する前から指輪を探してきたことが示唆される。
年表には「神名暦1520年頃 オルサ島の神殿に保管されていた指輪が失われていることが発覚」としか書かれていないから、いつから失われていたのかは実は不明である。指輪が失われた正確な時期がわからないということと、クロスフォード家がフィニスの門を封印する前から指輪を探してきたことが両方とも正しいとすると、クロスフォード家は200年以上前から指輪がなくなっていたのに気づいてたのに、教会は120年の間まったく気づいてなかったということになる。
聖火守指長はいったい、指輪を探してきたのか守ってきたのか?
【全授4章 ソンゾーンの説明】
次に聖火守指長が登場するのは全授4章である。歴代の聖火守指長の中で最も強い炎を持っていたと伝えられる、数百年前の聖火守指長ソンゾーン。
ソンゾーンの語るところによると、聖火神の指輪は代々の聖火守指長の指に収まっていたということである。
ソンゾーンは聖火神の指輪を手にしたところその魔力に溺れ、さらなる指輪を欲するようになったという。ソンゾーンが生きていた頃には指輪はまだ散逸していなかったのだろうか。一つだけ確実なことは、少なくとも聖火神の指輪はソンゾーンの元にあったということである。
指輪の魔力に溺れたソンゾーンが他の指輪をも手にし、ソンゾーンがフィニスの門の戦いで命を落としたところで指輪が散逸した。オージン・クロスフォードはそれを察知して、戦が終結する前から密かに探し始めていた、というシナリオはあるかもしれない。
そしてソンゾーンを倒したのが現界したてのリブラックだったら……などと妄想が膨らむ。閑話休題。
しかし、「後任者」とは何の後任なのか? “選ばれし者”は聖火守指長ではない。「真の主」ということは、それまでの聖火守指長は「真の主」ではなかったのか?
聖火神の指輪はそれまで便宜的に聖火守指長の指に収まっていただけで、よりふさわしい者がいればそちらの指に収まるということだろうか。
確かに、三授編終章のオルサ島で、聖火神の指輪はサザントスを拒否し選ばれし者の指に戻った。炎の才は持っていても聖火神からは選ばれなかったというのは、皮肉で残酷な事実だと思う。それにしても、聖火神以外の七柱の神々には自分の意思はないのか?
そもそも、フィニスの説明によれば、指輪はフィニスによって姿を変えられた神そのものはずである。ひとりの人間が聖火神の主になるということが起こり得るのか? それとも、指輪は純粋なる神の力の結晶なのか? 意思がないのに持ち主は選ぶのか? 結局のところ、神々の指輪とは何なのか?
三極編終章での親指のパトスの説明によれば、聖火神の指輪は世が穢れたときに姿を現し清き者の指に収まるという。ソンゾーンの説明は親指のパトスの説明と合わないように思うが、誰の説明が正しいのか。指輪が散逸し、聖火守指長が不在のまま数百年経つ間に、聖火神の指輪についての伝承も変わってしまったのだろうか。それともソンゾーン以前は恒常的に世が穢れていたので聖火神の指輪は姿を現したままであったのだろうか。
三極編終章でサザントスは「神々の指輪を封印する役目は聖火神の指輪に選ばれた者にしか果たせない」と言っているが、これは本来聖火守指長の役目ではないだろうか。このサザントスは偽物なので自分で封印できないのは当然だが、指輪を守護する立場の者が指輪に選ばれていないので果たすべき役割を果たすことができないというのはやはりイレギュラーな事象であるように思う。
余談だが、正体を知ってこの三極編終章のサザントスを見ると、本物に比べて慇懃なので本物ではないとわかる。
【全授4章 アルフレート王の説明】
アルフレート王が言うには、聖火守指長はかつてはホルンブルグと手を組んでいたという。ホルンブルグはフィニスの門を守り、聖火守指長は指輪を守ったと。
しかし、先のサザントスの説明を信じるのなら、ホルンブルグ建国時(≒フィニスの門を封印した直後)にはすでに指輪は失われていた可能性が高い。その後、選ばれし者が指輪を回収するまでに一度は指輪が見つかってオルサ島の神殿に再安置されたという描写は、記録を見返す限りでは作中にはない。
全授6章のサザントスの回想。サザントスが指輪を回収することを期待されていたのがうかがえる。自分はこのセリフを読んだ時に、サザントスの前には何人か聖火守指長がいて、その歴代の聖火守指長は指輪の回収に失敗していたのだと思った。
ところがこれはミスリードで、聖火守指長の座は長らく空席だったことが全授7章でわかる。サザントスの就任前はどのくらいの期間空いていたのだろうか。
その疑問は全授8章の手記で回答される。聖火守指長ソンゾーンはフィニスの門の戦いで命を落としており、聖火守指長はそれ以降サザントスが炎を継ぐまで不在だった。この間約200年である。では全授6章の回想の「歴代の聖火守指長」とは一体誰を指すのか。
アルフレート王の説明に戻る。
よく考えてみれば、数百年前の聖火守指長ソンゾーンをアルフレート王が召喚すること自体がそもそもおかしいのであった。アルフレート王は大陸の覇者の5年前までは生きていたのである。
「我らは古より手を組んできた」も何も、ソンゾーンの存命の頃にはホルンブルグはまだ存在せず、ホルンブルグ建国時にはソンゾーンはすでに亡くなっており、ホルンブルグ王国時代にはそもそも指輪は散逸していた可能性が高く、ソンゾーンの次の聖火守指長が登場するのはホルンブルグ王国滅亡の数年前である。
このアルフレート王の発言は一体どうしたものなのか。
ホルンブルグは一体誰と手を組み何を守ってきたのか。協力関係にあったのがソンゾーンの亡霊だとしても、肝心の指輪は遅くとも約100年前から行方不明である。無印の設定と矛盾するのはもう仕方がないが、大陸の覇者の中ですら設定が矛盾しているのは何なのか。
グラナート王国にもアルフレートという王がいて、我々というのがグラナート王国のことであるならまだ話の辻褄は合う。
サザントスの回想が正しければ、グラム・クロスフォードが妻の病気の治療法を求めて旅立ったのが神名暦1606年で、サザントスはその時すでに聖火守指長であった。アルフレート王はホルンブルグが滅亡したときの当代で、ホルンブルグが内乱で滅亡したのは神名暦1610年なので、サザントスが聖火守指長に任命された時は存命だったはずである。アルフレート王はサザントスとは面識はなかったのだろうか。
【聖火守指長の条件・炎の才】
炎の才とは具体的にどんな才能のことを指すのかは、この際もはや問うまい。しかし、サザントスの「炎」が彼の個人芸ではなく聖火守指長たる素質であるということはわかった。
教会はもともとはサザントスの母である神官ファラメに次代の聖火守指長としての期待を寄せていたという。
しかし聖火守指長とは「聖火騎士の中でもっとも強く、もっとも心の美しいものに依頼される」のではなかったのか。聖火騎士でなくても青い炎の才があればよかったのであろうか。
教会は指輪を探すのに躍起になっていてなりふり構っていられなかったようだが、指輪を見つけるのに青い炎の才は本当に不可欠なのだろうか。教会は「聖火守指長が現れること」と「指輪を見つけ出せること」をほぼ同義に考えているように見受けられる。
よしんば青い炎の才が指輪を見つけるのに不可欠だったとしても、教会はなぜ「聖火守指長」という役職にこだわったのか。神官の地位のまま探してもらったらよかったように思うのだが、なぜそれではだめだったのか。
サザントスが言うには「炎の才は子に受け継がれる」という記録があった。しかしファラメがサザントスの前に産んだ3人の子には炎の才が認められず、「炎の才は子に『必ず』受け継がれる」訳ではなかった。サザントスは炎の才を持って生まれたが、実は偶然だった可能性も否定できない。
そして、炎の才を持った者と血縁がなくても炎の才を持った子は生まれ得る。実際、サザントスや教皇ユリウスはロンドに炎の素質を認めている。聖火守指長が血統によって決まるという話もない。となると、そもそもの記録が本当だったのか疑わしくなってくる。
それにしても、200年以上も青き炎の才を持つ者が出なかったのに、一度現れたら10年も経たないうちに立て続けに2人も出てくるとは皮肉である。しかし、ロンドも実家が黒曜会に襲われていなければ聖火教会とは何の関わりもない人生を送っていたであろうから、実はこれまでも聖火教会とは全く関係のないところに炎の才を持った人物は何人も存在し、教会とは関わりのないままその人生を終えていた可能性は十分にある。
名授3章でリブラックやセラフィナがサザントスの血筋に言及していたが、炎の素質とは特に関係がないと考えるのが妥当と思われる。というのも、サザントスと血縁関係にはないロンドにも炎の素質が認められ、聖火守指長が血統によって決まるという話も特に作中でされていないからである。しかし、ではこの「“正統な血”の流れぬその身」だの「偽りの血」だのが何のことかというのも特にわからない。
【指輪の巫女】
オルサ島の指輪の巫女も「指輪を守ってきた一族」だという。
聖火守指長もオルサ島の指輪の巫女も「指輪を守る」という役割があることは同じだが、具体的に何が違うのか。
オルサ島の指輪の巫女は指輪を現地で守っているが、日ごろ神殿の外にいる聖火守指長は何をしているのか。万が一指輪がオルサ島から持ち出された場合に取り返してきて神殿に安置するのが役割だろうか。
指輪は少なくともこの100年ほどはオルサ島の神殿からは失われていたのであったが、その間指輪の巫女たちはどうしていたのであろうか。指輪はいつまで教会の管理下にあって、いつからなくなっていたのか。
【聖火守指長を推挙する組織】
全授5章、サザントスの回想である。聖火守指長とは「大陸の覇者」になるような「選ばれし者」なのだろうか。「大陸を守る存在」は「大陸の覇者」とは言わないように思う。全授6章ではサザントスが歴代の聖火守指長の誰よりも強いと教会関係者がサザントスに語り掛けているが、これも真実というよりはサザントスを鼓舞するための方便だったようにも聞こえる。
「代々、聖火守指長を推挙してきた」というが、どの時代の「代々」なのか。ソンゾーンからサザントスまで200年以上間が空いている。それに推挙も何も、炎の才がなければ聖火の試練を受けることができないし、聖火の試練に通らなければ聖火守指長にはなれないのではなかったのか。
サザントスの手記を読むに、この聖火守指長を推挙してきた組織におそらく枢機卿も関わっていた。聖火守指長が途絶えていた期間に、聖火守指長代理のような人物ををどうにか擁立する組織だったのであろうか。
サザントスの手紙を信じるなら、その組織は解体されたというよりサザントスに焼き尽くされたようである。ファラメに4人の子を産ませ、サザントスを養育したのはこの組織だったと思われるが、いつから存在し、聖火守指長のいない間何をしている組織だったのかは分からず終いであった。